2017年06月23日

米イージス艦とコンテナ船の衝突


  米海軍艦艇フィッツエジェラルド と 日本郵船運航コンテナ船ACXクリスタルの衝突


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米国イ−ジス艦フィッジェラルド 排水量8315トン

 6月17日の未明に米海軍イージス艦とフィリピン船籍コンテナ船が静岡県伊豆半島南端の石廊崎の沖合10マイル付近で衝突しました。米軍の行方不明者7名は艦内の水没した区画で発見されました。ご冥福をお祈りいたします。
 公務中の事故でしたので日本の捜査権は制限を受けて、米軍の調査結果が公表されるまでは明らかになりません。
 個人的な感想になります、宇和島水産高校練習船が原潜とハワイで衝突した事故では、原潜の船長は大した処分を受けなかったようです。おぼろげな記憶ですがそのような印象を受けました。今回は米国のほうに人的被害がでています、果たしてどうなるのでしょうか。


 問題点を挙げてみます。

1. 船長の甲板上の指揮義務について


 下田沖の石廊崎では関西と名古屋方面からの航路と東京湾と千葉・東北方面に向かう航路の交わる地点ですが、航海士をしていた経験では、商船は船長の指揮をうける場所ではありません。商船は今回は0-4ワッチの時間ですから2等航海士と甲板手の計2名で当直に入っていた。軍艦は人員が豊富なので、航海士1名と下士官1名や見張り員(左右と後ろ)3名で合計5名ほどで当直にあたっていたと思われます。

 米艦の船長が居室で寝ていて、浸水して負傷したのは不思議ではありません。東京湾の入り口に接近してからは船長の甲板上の指揮義務になります。


2. 米艦の装備と、損傷について


 観艦式で自衛艦「くらま」5200トンに乗船したことがあります。その時に舷側の厚み10mm強の厚さしかないのに驚きました。薄いですねと尋ねても装甲については大した秘密事項でもなさそうでした。 今回衝突したコンテナ船が3万トンクラスですので、同じ大きさのバラ積船に乗船した経験があります。その船の舷側厚は30mm位はあった記憶があります。
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ACX CRYSTAL、29,093総トン、船主:大日インベスト(株)、フィリピン人20人乗組

 両者が衝突すれば舷側の厚みの違いにより、今回のような損傷が起きるのは明らかです。 おまけに写真からは水面下の状況は判明しません。商船のバルバスバウのぶつかりで、かって衝角を船首下部に突き出して衝突して穴を空けて沈没させるものが軍艦の船首にありました。 商船のバルバスバウは衝突して衝角のような損傷をイ−ジス艦に与えました。

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バルバスバウ

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 水雷艇の衝角

 第2次大戦で戦った軍艦は同じクラスの砲撃に耐える装甲で作られていたので、8000トンクラスでは60-80mmの厚さの舷側装甲ですから、それなら被害の程度は違ったものになっていたでしょう。 現代戦は防御よりも早く見つけて先に攻撃することの戦術で軍艦は設計されているようです。イ−ジス艦は300Km先の航空機を捕捉できます。対水上戦用のレ−ダ−ももちろんあるでしょうが、航海するときは商船と同程度の航海用レ−ダ−で航行しているでしょう。 今では商船では衝突回避の機能をもつレ−ダ−が装備されていると聞きますがこちら老商船乗りには経験がありません。米艦に衝突回避レ−ダ−が装備されていたのかは不明です。現代設備や見張り員の人数も大事ですが、最後は人間の判断でしょう。


3. 航法上のこと


 商船の実際の航行はGPSの発達した今ではPCによりサイトにアクセスすることで海上の位置とそれまでの航路が把握できます。小生も仕事の関係で、船積みしてきた本船をこれでチェックしていました。


 http://www.marinetraffic.com/jp/ais/home/centerx:139.2/centery:34.5/zoom:9
  marine trafficによる


 コンテナ船の航跡は発表されていますが、軍艦の位置は軍事秘密ですから、もちろんサイトに登録されていない。商船の航跡と比べてみればかなりのことが分かると思いますが、残念です。

irouzaki 03.png

  航法上の規定で横切り船の航法が適用されるか、追い越し船の航法が適用されるかがポイントです。


下記の海難審判所のHPをご覧ください。小生も速度の遅いヨットに乗っているので、前方の船ばかりに注意を向けていると追越してくる船が警告信号を鳴らしたり、既定の追越し信号を鳴らされて驚かされたことを経験しています。昨年に音戸瀬戸を航行中にフェリ−から突然汽笛が鳴りびっくりしたことがありました。こちらは2ノット余りしか速度がないのに狭い川幅くらいの中央寄りを航行していては10ノット以上のフェリ−にとってはジャマものでしかなかったでしょう。あわてて右により5mくらいの間隔でこちらの左舷側をフェリ−は航行して事なきを得ました。

 http://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/houki/houkinyumon/oikoshi.htm
 海難審判所のHP 追越し船の航法

 夜間に前方に同行船がある場合は上のHPの図にあるように船尾灯の白色一灯しか見えません。舷灯の緑か紅の灯火が見えるとすれば横切りの航法になります。
前の船との速度の違いはレ−ダ−によりその船との距離を測っていくことにより判明します。大事なことは行会い船の航法でも同じですが、相手船に対して早めに自船の意思を示すこと、具体的には左舷対左舷または右舷対右舷でやりすごすように進路をとることです。


 http://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/houki/houkinyumon/koutsunyumon.htm
 海難審判所のHP 横切り船の航法


4. 海軍の航海科の充実


 ここで海上自衛隊の航海科の充実を述べています。この事故から、アメリカ海軍でも状況は同じではないかと想像されます。航海長は大尉くらいが就任して年齢三〇くらいが初任でしょう。イ−ジス艦の艦長でも中佐くらいだと思われるので艦内の位階序列からいえばそうなります。
  文章には書けない不文律ですが。軍艦と競合した民間船には、海軍さんは操船能力が低いので譲る気持ちが大事かもしれません。戦前では、軍人さんはエライということで皆が進路を譲り、事故が少なかった?のでしょう。

5. 外航商船の技量

 コンテナ船は神戸に本社がある大日インベスト(株)の所有で運航は日本郵船がしており、乗組員は船長以下20名ですべてフィリピン人である。外航日本人船員は絶滅したので、当然ように日本資本の船でも、船籍は便宜置籍にして外国人の船員により運航されている。 日本郵船はフィリピンに自社で船員大学を設立して、乗組員の養成をしている。技量を覚えた船員は日本支配の船に乗りたがらず、待遇の良い欧米の支配する船に転職していく現象があると言います。 船員は日本人でも出稼ぎ稼業で、古くはコメの生産の少ない地方からの人々で成り立っていました。フィリピン人といえどもある一定の経験を積んでいる乗組員であったら、劣るものではないと思いますが、果たしてコンテナ船にはどの程度の経験を有する船員が乗船していたかは不明です。

   2017-6-22

 追記

 6.オートパイロットと見張りのこと

 経験上で述べますと、商船ではあの海域では手動操舵で航行してはいません。他船との衝突の恐れが生じた場合は航海士が甲板手に一時的にオ−トから手動に切り替える。 石廊崎を過ぎて東京湾入り口への変針点にさしかかれば、オ−トでの変針で対処します。商船の当直は2名ですので、オ−トパイロットを使用して目視による見張りが中心で、航海士はレ−ダ−の補助を受けて見張りをしています。
 軍艦の場合は乗組員が多いので専従の操舵員が操舵輪の前で待機しています。これも恐らくオ−トパイロットを使用していたと思われます。商船は人数が少ないので通常は目視が十分できる場所にいて見張りをしています。
 霧で視界が悪くないかぎり船長はブリッジに登橋して指揮しません。必要を感じて船長を呼びに行っても早くて5分はかかり、通常では緊急に間に合いません。この海域では航海士単独で処理します。眠気をもよおすうような緊張感のない海域では無いのでので、商船は居眠りしていたこともないと思われます。フィリッピン人はわかりませんけれど。 軍艦のほうは左右後ろと十分な見張り員を配置しているにで、入港前の喜びから眠っていた人がいたかもしれませんね。航海用レ−ダ−も専用員がいたと思います。商船のようにレ−ダ−はつけっぱなしでもいつもその前で監視にあたっているわけではありません。

    2017-6-25





 




posted by 速魚 at 06:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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